ガバナンス

適切な経営判断に向け、議論の時間を十分に確保

社外取締役に就任した初年度は、前年度に低迷した業績の立て直しに臨んだものの、 年初からコロナ禍の影響に見舞われる状況となりました。 下方リスクへの早急な対応をしつつ、中長期視点から重要な施策を遅滞なく進めること、 特に独占禁止法違反への反省を踏まえたコンプライアンス強化、 米国子会社の火災事故後の安全対策と再発防止策を課題として、社外の視点から監督し意見を述べてきました。

取締役会では、一つひとつの議題の時間を十分に確保していると思います。 例えば米国カルゴン・カーボン社の生産設備増強決定の際には、市場動向、生産・収益計画およびその根拠など活発な議論が行われました。 私は経済学が専門ですのでその知見も踏まえ、先行きリスクも含めた十分な議論がなされ、かつ企業価値向上の観点からも成長事業への投資は方向性として正しいと考え賛同しました。ESGの視点については、かつて官庁勤務の時に、気候変動に関しG8サミットに向けアカデミックな視点からの提言策定業務に就いた経験があり、その後も継続的にその重要性を考えてきました。この1年では気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への賛同、 国連グローバルコンパクトへの署名など、持続可能な成長の実現に資する経営判断が行われたことを評価しています。

新経営体制発足に際しては、私も委員を務める経営諮問委員会が社長の選定を取締役会に助言する指名機能を果たし、川原新社長は、海外も含め幅広い事業部門を担当してきた経験や、年齢も若く活躍が期待できる人材として、トップに適任であると判断しました。 川原新社長には、 世界経済の変化に対応し将来の発展につながる新たな可能性を発芽させ、 育てていくリーダーとして、強い決断力をもって進むべき道筋を示し、クラレの進化を率いることが求められています。

クラレは2020年度より社外取締役の比率が1/3となり、 外国人取締役が選任されるなど、ガバナンスと多様性は一段と強化されました。グローバル展開が進む中で、 海外での収益をより伸ばすために最適なガバナンス体制であるかを今後も常に考えていくことが必要でしょう。 株主の皆様をはじめとするステークホルダーの目線で取締役会に参画し、 適切な議論を重ねることで、クラレの企業価値向上に貢献して参ります。

グループ経営の透明性を担保し、ガバナンスの拡充へ

私は、総合商社での経験を起点に、化学品系製造業を含む国内外の企業経営に携わってきました。そうしたバックグラウンドを活かし、企業における安全や品質保証、ガバナンス面、あるいは環境対応等の社会的責任についての取り組みなど幅広い経営テーマについて、クラレグループにおける課題は何か、問題があれば適切に処理されているかなど、外部の目線で捉え、大局的な視点から監督にあたることが自身の役割だと考えています。

2020年度は、 第1四半期にコロナ禍による影響が広がり、その対応に追われた1年でした。 同時に、 過去に発生した米国子会社の火災事故や独占禁止法違反に対しては事態の重要性を厳粛かつ真摯に受け止め、 妥協せずに議論しました。 私自身は、 議論を経た解決策がクラレグループにとって効果的に機能し、 企業価値向上に繋がる施策であるのか、 またステークホルダーの理解 ・ 納得が得られるものであるのか、 社外監査役の立場で監督をし、 状況に応じて助言していくことを意識しました。クラレグループの取締役会はオープンで自由活発な議論に基づいており、 時には取締役メンバーにとって耳の痛い意見となることもあると思いますが、社外監査役としての役割を十分に果たせる環境が整っていると感じています。

また、クラレグループはグローバルな成長に向け、自社による事業展開と並行し、企業買収を進めることで海外事業の成長を加速させてきました。従来のグループ内になかった文化やガバナンス意識を持つ企業を仲間に迎え、クラレグループの一員として保持すべき安全面・品質面の基盤や、クラレグループが大切にしている理念を共有しつつ、良いところは残して、活かしていく統合が重要です。

私たち監査役は、国内・海外拠点訪問による監査を通じ、新しくグループに加わった企業の中身を見ることができます。マネジメントへのヒアリングも実施し、重視すべき管理項目の統制状況を把握することで、クラレグループとして経営の透明性を担保し、ガバナンス強化に資する監査機能を果たしていきます。