安全に関する考え方
クラレグループの事業活動において、「安全」はすべての礎となる絶対条件です。「安心して働ける会社、事故や災害が起こらない安全な会社」の実現は、製品の安定供給を維持するためにも、社会から信頼され続けるためにも必要な重要テーマといえます。
そうした考えのもと、クラレグループは安全のマネジメントシステムを構築・運用するとともに、社員の安全意識を高め、安全行動と安全確認が仕事をする上での「当たり前」のこととして定着するために、さまざまな取り組みを推進しています。
各現場では、リスクアセスメント活動を通して保安防災・労働安全リスクを発見し、設備の本質的な安全対策を進め、その発生防止を図っています。また万が一、事故・災害が発生した場合に備え、被害を最小限に抑えるための訓練、事故の事例、教訓等の情報共有や対策の水平展開などを行っています。
- 安全に関する行動原則
- 『安全はすべての礎』
- 安全に関する行動方針(2025年度)
- 1.「安全第一、生産(工事、開発)第二」を実践すること
- 2.行動前の「危険予知」と行動前後の「確認」を実践すること
- 3.すべての人、すべての職場で安全を「自分事」として意識し、
行動すること
安全活動マネジメント
「安全活動マネジメント規則」に基づき、年度ごとに計画を立て、安全活動に取り組んでいます。社長および担当役員が出席する安全推進会議で、当年度の安全活動実績の総括評価と次年度の活動方針策定を行い、その方針を各事業所・部署の活動計画に反映させ、実行しています。活動の状況については、国内グループの各生産事業所の現場を安全担当役員を含む本社安全スタッフが年2回視察して検証を行い、海外グループには3年に1回を目途に本社安全スタッフが現地を訪問して確認を行うとともに、リモート会議による検証を行っています。現場での検証から得られた課題やその年の安全成績などをもとに実績の総括評価を行い、翌年の全社の方針策定に反映させて安全活動のマネジメントシステムを回しています。


保安防災・労働安全の活動内容
2024年度 | 2025年度活動項目 | |
項目 | 内容 | |
安全の基本行動(「危険予知」、「確認」)の現場での実践 | 「危険予知」と「確認」の浸透、定着を図った結果、一定の効果が得られていると考えている。しかしながら、現場での実践の度合いに差があり、バルブの閉め忘れなど基本行動を省いたために事故・災害に至った事例が依然として発生している。今後も、安全の基本行動を全員があらゆる場面で実践できるようにすることを目指して継続的な取り組みが必要。 |
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現場のリスクの把握、設備面・管理面からの対策検討 | 5Sや現場で発見した「気づき」の共有、作業標準書見直しなどの活動により、現場のリスク発掘と発見したリスクの改善が進んだ。しかし、風景化、常態化したリスクはまだ残されており、「そんなことはしない、起こらない」との思い込みから、リスク検討の対象から漏れ、人の注意力や技量に頼った安全対策になってしまい事故・災害が発生している。今後も現場に潜む重大リスクの把握と設備面及び管理面からの安全対策が必要。 | |
工事・保全作業の安全確保 | 安全な工事・保全作業を行うためのシステムや規定の見直しと教育、特に、安全な場を提供するための事前の安全措置、現場・現物による三者立会い確認、適切な情報伝達などの実施が進み、安全な場の提供が不十分なために工事作業者が被災する事例は減少した。安全確保のためのルールが現場で確実に運用され、実践が継続できるように引き続き取り組む。 | |
海外化学プラントの保安管理レベルの向上 | 米国、欧州、アジアなど海外化学プラントに対する安全監査を継続して行った。2023年に導入した安全方針など説明会議、事故報告会などの仕組みの継続的な運用により、海外グループとのコミュニケーション向上を進めた。また、組織横断的なメンバーで構成されたPSM(プロセス・セーフティ・マネジメント)のグローバル専門家チームによる米国3拠点に対する保安管理の実施状況について現地監査を行い、いくつかの課題を抽出し、対応を進めている。今後も引き続き保安管理レベルの向上を図る。 |
保安防災
クラレグループでは、社会に対して甚大な影響を与える爆発、火災、有害物質の漏洩などの事故の未然防止を図ること、そして万が一事故が発生した際の被害を極小化することを重要な責任と考えています。そのため、保安防災に関するリスクアセスメントに継続的に取り組み、建築物・プラントの地震対策や津波対策、設備の保安管理システムの整備などの保安防災活動を推進しています。
特に、2010年代に発生した他社の事故を契機として、運転立上げや停止、停電、断水、緊急停止といった非定常時のリスクアセスメントに注力しています。さらに、安全装置が故障した場合、標準の手順やルールが守られない場合なども対象として、さまざまなリスクを抽出し、その対応策の検討を進めています。
合わせて、異常の兆候検知のための危険感受性向上の教育や異常の判断基準の明確化にも取り組み、異常に対して迅速に対応し、事故に至る前に対処できる設備、管理の工夫や人材の育成に取り組んでいます。
また、万が一に備え、夜間休日、職場長の不在などを想定した訓練、無警告での訓練、外部の施設を利用した訓練、地域消防との共同訓練など、緊急時に対するさまざまな現場訓練を定期的に実施しています。外部機関による安全基盤と安全文化の評価にも取り組んでおり、より強化すべきポイントを把握してPDCAを回すことで、事故や災害の起こらない安全な会社を目指していきます。
重大な事故が発生した場合には、社長を本部長とする緊急対策本部を設け、速やかな対処・現場への支援ができる体制も整えています。事故の際、地域・マスコミに適切な情報を提供できるよう、対外的な広報の場に立つ主要管理者を対象にメディアトレーニングも行なっています。
2024年のグループ全体のA、B、Cランク事故件数(比較的大きな保安事故件数:当社独自の評価法)は、4件(国内グループ:Aランク漏洩1件、Bランク漏洩1件、Cランク漏洩1件と火災1件)となり、目標(0件)未達となりました。国内グループではここ数年5件前後のA、B、Cランク事故が続いています。また、海外グループでは事故の発生がありませんでした。2024年のグループ全体のD1、D2ランク事故件数(ごく少量の危険物漏洩、初期消火で鎮火した火災・発火といった軽度の保安事故件数:当社独自の評価法)は、21件(国内グループ:D1ランク漏洩11件と火災4件、D2ランク漏洩5件と火災1件、海外グループ:なし)となり、目標(3件以下)未達でした。保安事故の発生件数は2年連続で増加しており、過去最悪の件数となりました。きわめて軽微な漏洩事案などが確実に報告管理されるようになってきたことも発生件数増加の一因となっていると考えますが、バルブの閉止忘れなど操作前後の確認不足による事故や、現場リスクの風景化・常態化によるリスクの見逃し、設備の経年劣化によるものなどが見られ、その対応を図っています。引き続き、比較的大きな保安事故ゼロを目指すとともに、軽度な事案の発生低減を目指し、現場のリスク把握と対策を推進していきます。
クラレグループでは、火災、爆発、漏洩などの保安に係る事案のうち監督官庁への報告が必要なものを保安事故とし、保安事故には該当しないが保安事故に至る可能性があったと判断した事案を保安トラブルとして分類しています。国内グループに比べて海外グループの保安事故件数が少ないのは、国内と海外で監督官庁への報告に関する基準が異なるためで、同程度の事案でも海外グループでは保安トラブルとしてカウントされていました。そこで、これまでの保安防災に関する目標としてきたA、B、Cランク(当社独自の評価法)の保安事故0件に、2025年からはA、B、Cランクの保安トラブル0件を目標に加え、クラレグループ全体の保安事故および保安トラブルの低減に向けて取り組みを進めていきます。
2019年から開始した海外化学プラントに対する安全監査を継続するとともに、2022年にはPSM(プロセス・セーフティ・マネジメント)のグローバル専門家チームを新たに編成し、活動を開始しました。この専門家チームでは組織横断的なメンバーによる課題の抽出・把握、改善に向けた知見の情報共有、クラレグループ全体への水平展開を目的としています。2024 年は米国の3拠点の保安管理の実施状況について現地監査を行い、いくつかの課題が抽出され、それぞれ対応を進めています。今後も海外化学プラントの事故の再発防止の徹底を図るとともに、PSM監査を継続し、監査などによって明らかになった課題について対応を進めて保安管理レベルの向上を図っていきます。
労働安全
クラレグループでは、従業員の安全と健康の確保に向け 、労働安全マネジメントシステムの適切な運用を通じて、組織および社員一人ひとりの安全レベルの向上に努め、安全で災害のない職場を目指しています。安全に関する行動原則、行動方針をはじめとする全社の方針や活動項目などを基にして、各事業所・部署の特徴に合わせた方針・計画を立て、これに沿って各部署が工夫を凝らした活動を行っています。安全活動の状況やその課題については国内の各事業所・工場等で毎月開催される安全衛生委員会の中で労使一体となって討議し、「安心して働ける会社、事故や災害が起こらない安全な会社」の実現に向けて取り組んでいます。
リスクアセスメント活動や設備の本質的な安全対策を通して、設備の不備による災害を減らす活動を継続的に進めています。しかし、個人の不用意、無意識の行動に起因する労働災害はまだ多く発生しています。このような災害を無くすため従業員一人ひとりの危険への感度を高める教育を推進しています。
2024年11月に国内クラレグループで死亡災害が発生しました。作業者自らが2段積みに仮置きしたフレキシブルコンテナが荷崩れを起こし、建屋鉄骨ブレースとの間に挟まれ圧迫窒息により死亡に至ったものです。作業基準書で定められた数量を超えてフレキシブルコンテナを荷揚げし、2段積みしたことが直接の原因でしたが、事故報告会を開催しそのような行動を誘発した背景要因も含めて再発防止の議論を行いました。今回の死亡災害を警鐘として、クラレグループの全ての職場でこのような重大な労働災害を二度と起こさないための活動に取り組んでまいります。
2024年のグループ全体の全労働災害度数率は、2.32(国内グループ1.19、海外グループ4.01)となり、目標(1.8以下)未達となりました。国内グループは目標(0.6以下)には大きく未達でしたが、前年比でおよそ半減となりました。海外グループも目標(3.8以下)には僅かに未達でしたが、対前年では減少し、年々低下してきていると判断しています。当社では、労働災害の深刻度をA~Dの4段階で評価する独自の指標を導入しており、より深刻な労災にあたるA、Bランクの発生ゼロを目標にしています。2024年のA、Bランク災害(重大労働災害)は、グループ全体で合計4件(国内:Aランク災害2件、Bランク災害1件、海外:Bランク災害1件)発生し、目標未達となりました。発生したA、Bランク災害は重量物による挟まれ、設備への巻き込まれ、有害物等との接触(被液)、および転落によるものが各1件でした。これらはリスクの見逃しや人の注意力や技量に頼った安全対策になっていたことなどに起因しており、その対応を進めています。このような課題に対する取り組みを確実に進め、今後も安全で災害のない職場を目指して取り組んでいきます。
新規事業、設備投資案件等におけるリスク評価
クラレグループでは、国内外の新規プロジェクトや設備投資について、「技術評価委員会」「技術検討会」「安全・環境審査」でプロセスの安全や労働安全衛生に係る事前の調査やリスクアセスメントを実施し、安全対策・環境対策が十分に検討されているかを確認した上で、次ステップに進む体制を構築し運用しています。また、原材料や設備・運転条件・組織の変更、組織の変更に伴う人の異動(責任者、管理者、担当者等)などが生じた場合には「変更管理」の一環としてリスクアセスメントを行い、必要な対応をとった上で変更を実施しています。これらの取り組みを確実に運用することで新規事業、設備を導入する際の安全確保を図っています。
米国工場火災事故に関する検証と対策について
クラレグループは2018年に米国グループ会社の工場で発生した火災事故についての検証結果を2023年12月に報告しました。技術、ガバナンス、訴訟対応の3つの観点から検証し、それぞれに取りまとめた再発防止策の着実な実施を進めています。さらに、これらの検証結果と再発防止策を踏まえたグループ全体の対策をまとめ、安全活動現場検証などの活動を通じてグループ全体に水平展開しています。今回の検証結果とその対策に基づいた取り組みを国内および海外グループで展開し、クラレグループ全体の安全管理体制およびリスク管理体制のさらなる強化を目指しています。
経営・事業説明会資料
海外化学プラントに対する安全監査
海外グループの安全と安定操業を確実なものとするため、2019年から海外化学プラントに対する安全監査を継続しており、保安リスクの把握と安全対策の見直し・強化に取り組んでいます。2024年は、米国、欧州、およびアジアの工場に対して、現地訪問による安全監査を実施しました。これまでに抽出された課題への対応状況のフォローを行うとともに、保安事故・トラブルの原因究明と対策の進捗状況について確認し、現場の安全レベル向上を図っています。また、2022年にPSM(プロセス・セーフティ・マネジメント)のグローバルな社内専門家チームを編成し活動を開始しました。2024年は米国3拠点の保安管理の実施状況について現地監査を行い、検出された課題への対応を進めています。今後もこの専門家チームによる監査を継続し、海外化学プラントにおける保安管理体制の現状確認と課題の把握を進めて保安管理レベルの向上を図っていきます。
クラレ独自の保安事故評価法について
これまでクラレグループでは保安事故(火災、爆発、漏洩等の保安に係る事案のうち監督官庁への報告が必要なもの)について、事故の程度の大小を区別せず発生件数で保安成績の評価を行い、目標設定を行ってきました。しかしながら、この方法ではリスクに応じた適切な目標設定が行われているとはいえない状況でした。そこで、保安事故の大小による分類を行い評価指標に組み入れようとしましたが、一般に知られている分類法(CCPS法など)では、クラレグループで発生している保安事故のほとんどが最小ランクに分類されることになり、我々の目的に合致するものではありませんでした。そこで、2020年に当社独自の評価法を構築しました。この評価法は、事故の種類(火災、爆発、漏洩等)ごとに事故の規模を分類し、また人的被害の有無、事故の発生に至った要因などを加味してランクを決定するもので、CCPS分類の最小ランクの災害もさらに分類、区分できるものとしました。これにより、A、B、Cランクに分類される大きな事故は“決して起こしてはならない事故”として発生ゼロを目指すとともに、D1、D2ランクに分類される小さな事故(危険物の微少漏洩、初期消火で鎮火した火災・発火等)については、“発生の頻度を低減する事故”としてそれぞれの目標を設定することで、リスクに応じた適切な保安リスク低減活動に役立てます。2021年からこの評価法に基づいた保安防災の年度目標を設定し、活動に取り組んでいます。また、保安事故の基準を監督官庁への報告が必要なものとしているため、監督官庁への報告の必要が無い事案については保安トラブル(保安事故には該当しないが保安事故に至る可能性があったと判断した事案)として管理していますが、国内と海外では監督官庁への報告の必要性の基準が異なるため、海外で発生した比較的大きな保安事案がトラブルとしてカウントされ、低減目標の対象となっていませんでした。そのため2023年からは保安トラブルもこの評価法によるランク分類を適用し、2025年からはA、B、Cランクに分類される保安トラブルも目標に追加し、発生ゼロを目指しています。
労働災害評価
労働災害の分類の指標として、一般的には傷害の程度による分類(死亡災害、休業災害、不休業災害等)が用いられています。その中でも休業災害を基にした度数率が組織の安全レベルの評価や組織の安全の目標としてよく用いられます。しかし、この評価方法では、以下のような点から実際の安全レベルと乖離する場合があるのが実状です。
- ①傷害の程度は「偶然」に左右されやすい。
- ②災害の発生要因が考慮されない。
- ③(グローバルな管理に使用する場合)国により傷害程度の判断が異なる。
そこで、2012年に当社独自の指標として、「偶然」の要素を除き、発生要因の評価を加えた新しい労働災害評価ランクを設定しました。実際に起きた傷害程度ではなく、労災が発生した事象に対して、それにより潜在的に起こり得る傷害程度を数値化します。さらに、災害発生要因の不具合の度合いを、人的、設備的、管理的要因に分けて点数化し、潜在的な傷害程度に加えることにより、A、B、C、Dの4段階にランク付けしています。
その結果、深刻と判断されるAランクとBランクの労働災害の発生件数を、その組織の安全レベルを評価する指標として利用可能になりました。