ガバナンス

素材産業を牽引するグローバル企業として、今後のさらなる飛躍に期待します。

社外取締役に就任し、1年が経過しましたが、私が最も印象的に感じたのは、当社の取締役会での議論が非常に活発であることです。社外取締役もさまざまな経験・知見から多面的に洞察力の深い指摘をしており、大変有効な議論ができていると評価しています。

素材産業は、国際経済の潮流の見地からも、今後ますますグローバルに成長が期待できる分野であることは確かです。私自身、これまでグローバル経済と金融政策に携わってきた経験を生かして、マクロな視点から積極的に提言しています。

また、川原社長の経営トップとしての資質に関しても高く評価しています。サプライチェーンの上流に位置する素材産業は、その特性から部門ごとに市場環境が大きく異なり、それぞれ独自の経営戦略があるため、グループ全体として統一性のある方針を打ち立てることは難しいものですが、その点、川原社長は明確なビジョンを持ち、強い求心力で会社全体を率いており、素晴らしい経営トップであると思います。 今般発表した中期経営計画「PASSION 2026」は、カーボンネットゼロやESGへの対応など、産業界全体がその存在意義を問われ新しい局面へ移行する変革期と相まって、良いタイミングで策定でき、また私たち社外取締役もその議論に深く関わりました。策定にあたっては、サステナビリティをテーマの中心にして、原材料の調達から消費者動向の把握まで、サプライチェーンの流れの中で幅広く議論しました。また、クラレグループはこれまで数多くの社会や環境に貢献するサステナブルな製品を開発してきましたので、こうした実績を改めて整理し、今後の経営戦略に落とし込んでいくことについて、時間をかけ徹底的に話し合いました。今後もこのテーマは、経営戦略の中心軸として、引き続きステークホルダーの皆さまの客観的視点を交えながら長期的視座に立ち、検討を重ねていきたいと思います。

今後、クラレグループがさらにグローバルで飛躍するための課題は大きく3つあると私は考えます。1つ目は、グローバルでの管理体制の構築です。各国・地域の政策や市場変化に迅速に対応していくためには、海外拠点にも一定の意思決定の権限を与え、自律した事業活動が必要になります。そのバランスをどのようにとるかが課題と考えます。2つ目は、将来の収益の柱となる新規事業創出の早期実現です。時代が激動する中で経営の安定化を図ることはもちろん重要ですが、やはり新分野を開拓することは、既存事業における新技術や新製品の開発にも良い刺激を与えるものです。ぜひ進めていただきたいと思います。3つ目は、人材の多様化・高度化です。その実現のためには、女性人材、海外人材、異業種からの人材の採用をより意欲的に行わなければなりませんし、入社後は、企業内研修や外部機関で学ぶ機会を積極的に設けるなどして、より一層人材の高度化を図る必要があります。人材については、今後のさらなる事業発展に向けての重要な鍵になると考えます。

クラレグループには「世のため人のため、他人(ひと)のやれないことをやる」という、企業の理想たるべき素晴らしいDNAがあります。和魂洋才ではなく、あくまでも独自の技術でさまざまな社会的課題を解決してきた歴史を見ても、物事を成し遂げる力・風土が企業基盤として根付いていると思います。素材産業を牽引するグローバル企業として今後のさらなる飛躍に期待しています。

グローバルでのリスク管理体制の強化とサステナビリティを推進し、世界にとってかけがえのない存在を目指してほしい。

社外監査役の基本的な役割は、「(内部者ではない部外者としての)客観的立場・第三者視点から取締役の職務執行を監視・監督することを通し企業価値向上に寄与する」ことだと思っています。この認識に立った上で、日々、クラレの企業特性に適う実効性の高い監査を心掛けています。必要と判断すれば、適法性だけではなく妥当性に及ぶ意見具申をすることもあります。

クラレグループは「グローバル」な「化学メーカー」です。高い技術力により競争力ある製品群を生産し、世界に遍く供給するわが国屈指の素材メーカーです。社外監査役として、この企業特性を持つがゆえに当社が必然的に直面する課題の本質をよく理解し、対応のあり方を外部の視点からチェックすることが第一の責務だと考えます。今、私が重要視しているテーマは大きく2つあります。「ESG/SDGs」と「グローバルな統合リスク管理」です。

化学系企業は、その業務特質から、安全や品質管理・GHG排出量の削減といった多くのESG課題と真正面から向き合わざるを得ない業種です。同時に、クラレグループは買収拠点も含め世界各地域に大規模な生産・販売拠点を保有するグローバル企業です。重要な経営課題、とりわけリスク管理では、国内にとどまらずグローバルベースでの体制強化が必須となります。

私が社外監査役に就任して4年が経ちました。この間、当社では事業活動と密接に連携したサステナビリティ強化が着実に進められてきました。本年_月には、社長を委員長とする経営直轄の「サステナビリティ委員会」が設置され、また新たに「サステナビリティ長期ビジョン」とその実現に向けてのアクションプラン「サステナビリティ中期計画」が策定・公表されました。ESGを含むサステナビリティ推進の体制は飛躍的に拡充されたと実感しています。

リスク管理についても、法務部など、所管組織が当該リスクをグローバルに一元統括管理する体制整備が進捗しています。大変心強く思います。業務環境の変容と今後のクラレの業容・業務拡大を展望すれば、リスクの多様化・リスク量増大は必至です。「今」に安住せず「これから」を見通した、さらに一歩踏み込んだ統合リスク管理体制、強固な運営のフレームワーク構築が必要かと思います。

クラレグループは拠点が世界中にありますので、他の管理課題同様、リスク管理の基本単位を一旦地域別に構築するか、それとも直接的に一極管理するかなど、いわゆる「三線ディフェンス」の第二線の設置場所や要員配置のあり方も含め検討を要する具体課題は多数あります。「リスク管理の高度化」には継続的かつ不断の努力・注力が必要です。もとより簡単容易な取り組みではありませんが、当社では今、経営の強い意志と牽引により対応が着実に進捗しています。わが国を代表するグローバル企業として、当社はこれからもこの重要な経営課題に果敢に取り組んでいくものと確信しています。

今後の持続的成長という点で、クラレグループのポテンシャルは非常に大きいと思います。生活様式が大きく変わり、産業構造の変化が著しい時代だからこそ、あらゆる分野に貢献できる「素材」を生み出す化学メーカーには大きなチャンスがあります。しかしその一方で、原料に一番近い業種であるがゆえに、ESG、特に環境については多くの課題もあります。こうした課題を解決し優秀素材供給というミッションを果たしていくためには、企業ステートメントに掲げる「私たちの使命」である「私たちは、独創性の高い技術で産業の新領域を開拓し、自然環境と生活環境の向上に寄与します」を社員一人ひとりが胸に刻み、サステナビリティの観点をしっかりと企業活動に組み込むことが重要です。このクラレの原点を大切にし、ぜひ、世界にとって真に「かけがえのない存在」になってほしいと思います。