株式会社クラレ(本社:東京都千代田区、社長:川原 仁)は、国際的な安全規格の策定を担う非営利組織UL Standards & Engagementが2025年5月に発行した、新規耐トラッキング性規格「UL 2597 Outline of Investigation for Test Method for Materials for Use in Transportation Applications: Surface Tracking Test (STT) Method」(最大試験電圧:900V)に基づく試験により、当社の耐熱性ポリアミド樹脂〈ジェネスタ®〉の優れた耐トラッキング性(耐高電圧特性)が確認されたことをお知らせします。
 近年、電気自動車(EV)における高電圧化が急速に進展しており、2020年には800Vシステムが商用化され、現在では1000V超のシステムが実用段階に入っています。これに伴い、樹脂材料に求められる絶縁性能も高度化しており、特に耐トラッキング性が重要な評価項目となっています。
 既存の耐トラッキング性評価規格(ASTM D3638、IEC 60112)では、最大試験電圧が600Vに制限されており、実使用環境における高電圧条件との乖離が生じていました。
 当社では従来、自社法により600〜1000Vの範囲で〈ジェネスタ〉の耐トラッキング性を評価し、900Vにおいてもトラッキング現象※が発生しないことを確認してきました。2025年5月にUL Standards & Engagementが新たに発行した「UL 2597」規格の登場により、600〜900Vの範囲での標準化された第三者評価が可能となりました。
※絶縁材料の表面において微小な放電が繰り返されることで、局所的な炭化が進行し、導電性の経路が形成される現象。高電圧環境下では、絶縁破壊や火災の原因となることがあり、樹脂材料の安全性評価において重要な指標とされる。
 今回、UL Solutionsにて「UL 2597」規格のSurface Tracking Testを実施した結果、〈ジェネスタ〉ハロゲンフリー難燃グレード「GP2450NH-2 BLACK」(難燃性規格UL94 V-0認定)は最大試験電圧900Vにおいてもトラッキング現象の発生が認められませんでした。従来規格で評価困難であった高電圧領域においても、〈ジェネスタ〉の優れた耐トラッキング性が確認されました。
 当社はこれからも、独自素材である〈ジェネスタ〉の展開を通じて、自動車の高度化に伴う高電圧車載部品の小型化・高性能化・安全性向上に寄与するソリューションを提供してまいります。
●世界に先駆けて原料モノマーから自社開発した耐熱性ポリアミド樹脂で、1999年に事業化した当社の独自素材です。耐熱性、耐薬品性、低吸水性、電気絶縁性、耐摩耗性などの特長を有します。特に、SMTコネクタでブリスターの問題が発生しにくいという特長があり、電気・電子製品向けに採用を拡大してきました。
●スマートフォンやパソコンのコネクタなどの電気・電子用途、LED反射材用途のほか、軽量化ニーズが高まる自動車分野でも冷却系部品のハウジングやギヤなどで採用が拡大しています。さらに近年は、車載電装部品でも採用が進んでいます。
●グローバルに増大する需要に対応し、安定した供給体制を整えるため、2023年に稼働を開始したタイの新プラントではモノマーからポリマーまでの一貫生産を行っています。タイの新プラント稼働に伴い、グローバルで年間26,000トンのポリマー供給が可能になりました。
 UL Standards & Engagementは、規格策定およびアドボカシー活動を行う非営利組織であり、安全科学のデータを実用的で行動指向型の安全規格に反映させるために活動を行います。世界中の専門家を結集し、規制当局や政策立案者にとって重要なリソースとしての機能を果たします。パブリックアウトリーチ活動の一環として、知識の共有、規格関連の安全政策における連携の推進、安全性の向上に寄与する規格および規制に関するアドボカシー活動を実施します。