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当社は、独創的技術の発現による環境領域を中心とした新事業の創出・拡大を経営の重要課題に掲げ、グループの総力を結集するため本年4月にアクア事業推進本部を設置し、戦略的にアクアビジネスの拡充へ取り組んでおります。
今般、その一環として取り組んできた新規バラスト水処理システムの開発に目途が立ちましたのでお知らせいたします。

1. 本システムの開発経緯

貨物船舶がバランスを保つために専用タンクに積み込むバラスト水は、採水した国の港とは異なる国の港で排出されることが多く、含まれている水中生物が本来の生息地でない環境中に拡散することにより、世界各地で外来種の生物が繁殖して生態系撹乱、漁業被害など問題発生の原因となっています。そのため、2004年2月に国際海事機関(IMO)でいわゆる「バラスト水管理条約」が採択され、船舶へのバラスト水処理装置の搭載が義務付けられることとなりました。
一方、バラスト水処理システムは、ろ過や遠心分離などによる大型生物の分離工程(前工程)と化学的(活性物質)あるいは物理的(紫外線など)方法による小型・微細生物の殺滅工程(後工程)から構成されるものが一般的です。調査の結果、前工程における生物の分離が十分でないため後工程に負荷がかかり、活性物質使用量や紫外線などを発生させるための電力使用量が増大する傾向にあることがわかりました。
そこで、当社は地球環境保全に貢献するため、1976年にスタートした工業用水処理膜事業で蓄積した「ろ過」に関する知見を活かし、高精度のろ過機能を搭載したバラスト水処理システムの開発に取り組むこととしました。

2. 本システムの概要・特長

  • (1) 特殊フィルターを使用した高精度のろ過により、前工程で生物を十分に分離。それにより後工程における活性物質使用量の大幅削減が可能に。
  • (2) バラスト水処理用途において世界初の常温保存可能な固形薬剤を活性物質として採用することにより、厳密な温度管理や大容量タンクが不要になり、電力使用量の抑制・省スペースが可能に。
  • (3) オゾンなどを使用したシステムに比べ安全性が高く、電力使用量も抑制可能であり、また、特殊フィルターはろ過抵抗が低いため、既設の発電機・バラストポンプがそのまま使用でき、低コスト化が可能に。
活性物質
生物に対する殺滅能力を有する物質の総称、現在開発されているシステムは、全て薬剤が活性物質として用いられているが、対象生物を捕食する生物であっても概念としては活性物質に含まれる。

バラスト水処理システム概念図

3. 市場見通しと事業構想

バラスト水処理市場の見通しは既就航船および新造船合わせて2兆円市場と言われています。
一方、新造船への義務化は当初、2009年(バラストタンク容量5,000m3未満の船舶から適用開始)でしたが発効が遅延しており、早ければ2010年から順次適用されるであろうというのが現時点における業界関係者間での大方の見方です。また、既就航船を含めた全面義務化は2017年となる見通しです。当社は市場の本格的立ち上がりを2012年頃と見ており、事業化に必要なシステムの型式承認を2011年度に取得すべく準備を進めています。
事業構想としては、本システムの販売のほか、世界の主要な港に消耗品の補給基地及びメンテナンス拠点を設置することも検討していく予定で、市場のピーク時(既就航船を含めた全面義務化が実施される直前の2016年)には年間売上高500億円以上を目指していきます。

以上

【参考】本システムの技術的な背景

一般的に、高精度のろ過は以下の理由により、1時間に数百~数千m3という大量の処理を行うバラスト水には適用できないと言われています。

  • (1) 単位時間あたりの処理能力(流量)が低い。
  • (2) 使用開始当初からろ過抵抗(圧力損失)が高いうえに、捕捉した懸濁物質により短時間で閉塞してろ過抵抗が上昇するためろ過寿命が縮減される。

これに対して当社は、ろ過精度が高く圧力損失の低い特殊なフィルターを用い、これに独自の運転ノウハウを付加することにより、従来なし得なかった長寿命化を達成しました。
さらに、このろ過システムと組み合わせ、小型・微細生物の殺滅工程に使用する活性物質として、バラスト水処理用途において世界で初めて常温保存可能な固形薬剤を採用しました。これまでのところ、この用途で使用される活性物質は液体の薬剤が採用されていますが、薬剤成分の分解を抑制するために低温で保管する必要があり、保管するタンクも容量が大きくなるなどの制約がありました。また、その他の殺滅手段として電気分解(次亜塩素酸生成)、紫外線、オゾンなどを用いるシステムもありますが、これらはいずれも多大の電力を必要とするため発電機の能力が不足することや、設置スペースが大きくなる等、船舶の設計自体に影響を及ぼす可能性があるという課題を抱えています。こうした課題に対して、当社は取り扱いが容易な固形の薬剤を溶解しながら使用することで、安全性、消費電力、設置スペース等の制約を大幅に緩和するとともに、ろ過システムと組み合わせることでその使用量を大幅に削減することに目途を得ました。