(株)クラレ(本社:東京都千代田区、社長:和久井康明)は、このたび当社が持つ高分子材料技術、微細加工技術、バイオ技術を融合し、従来の平板培養では実現が難しかった生体外環境下における生体モデルの再現を可能とし、樹脂基板上で立体的な増殖・分化、および伸展・配向方向の制御が可能なマイクロ空間細胞培養チップの基本技術の開発に成功しました。
この細胞培養チップは、三次元マイクロ構造(数μm~数百μm)を緻密に配列した樹脂チップであり、チップ上に播種された細胞が、マイクロ構造で規定された三次元方向へ増殖・分化します。
三次元マイクロ構造の形状やサイズは、様々な細胞種や研究用途に応じてカスタマイズが可能であり、再生医療やバイオアッセイ(生物検定)等の研究において、大幅なブレークスルーをもたらすことが期待されます。具体的には、細胞の骨格構造に関する研究や、細胞活性の評価試験に用いることで、例えば動物実験の代替、創薬開発、組織再生等の研究への寄与が考えられます。クラレはこのような研究領域での利用拡大を目指し、マイクロチップのみならず、目的に応じた培養システムの開発を進めています。
本チップの基本技術は、独立行政法人食品総合研究所(所在地:茨城県つくば市、理事長:兒玉 徹)との共同研究の成果を基にクラレが開発し、用途を含めた複数の特許を出願しています。なお、本チップは食品総合研究所、北海道大学が連携推進している農林水産省ナノテクノロジー関連研究プロジェクトにサンプル提供しています。
また、本チップの有効性に関しては、北海道大学大学院理学研究科の矢澤道生教授、高橋正行助教授らによる線維芽細胞の培養、同歯学研究科の柴田健一郎教授、安田元昭助教授、菊池裕子助手らによる骨髄由来細胞の培養、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科・循環器内科の大江透教授、中村一文助手、および同システム循環生理学の梶谷文彦教授らによるラットの可逆性不死化心筋細胞の培養や、防衛医科大学校の菊地眞防衛医学研究センター長、および医用電子工学講座の守本祐司助手よるナノ粒子を用いた非蛍光細胞標識技術の基礎的検討などの研究成果が学会報告されています。
なお、クラレでは本年7月より、本マイクロ空間細胞培養チップを底部に組み込んだポリスチレン製ディスポーザブルディッシュ(直径35mm、60mm)を各種医療研究機関向けに試験販売を開始します。組み込まれるチップは厚さ約0. 13~0. 15mmの光学用透明樹脂フィルムからなり、位相差顕微鏡、偏光顕微鏡、共焦点顕微鏡等による生細胞の観察や、蛍光イメージングが可能です。また、本チップは無機系および有機系薄膜による表面改質処理を施すことが可能です。
今後クラレでは、今回開発したマイクロ空間細胞培養チップを始めに、高分子材料技術、微細加工技術をベースとしたマイクロチップの開発を進め、ライフサイエンス領域へ広く事業展開していきます。