トップステートメント

トップステートメント

代表取締役社長 川原 仁

昨今、企業は社会に対してどのような価値を提供できるかが、ますます問われるようになっています。企業ステートメントの使命に掲げる「独創性の高い技術で産業の新領域を開拓し、自然環境と生活環境の向上に寄与します。― 世のため人のため、他人(ひと)のやれないことをやる―」は、クラレグループの社会における存在意義でもあります。この使命のもと、私たちは独創性とチャレンジ精神をクラレグループ全体で共有し、事業を通じて社会への価値の提供を図ってまいります。

クラレグループは2022年2月度から5ヵ年の中期経営計画「PASSION 2026」をスタートしました。「PASSION 2026」では、『Kuraray Vision 2026』の達成を目指し、3つの挑戦を設定しています。

1つ目は「機会としてのサステナビリティ」です。マテリアリティにおいてクラレグループが進むべき方向性をPlanet、Product、Peopleの3つのPで整理し、サステナビリティ中期計画としてKPIを設定し推進していきます。2つ目は「ネットワーキングから始めるイノベーション」です。社内・社外を問わず、人と人、技術と技術をつなぐことで、新たな成長ドライバーとしてのイノベーションを生み出します。3つ目は「人と組織のトランスフォーメーション」です。デジタルでプロセスを変え、多様性で発想の幅を広げ、人と組織に変革をもたらします。これら3つの挑戦は相互補完性があり、2022年1月に新設したイノベーションネットワーキングセンター(INC)などの組織やデジタルツールを活用し、しっかり連動させて取り組んでいきます。また、これらの挑戦は「PASSION 2026」期間中に限らず、その先の2030年、2050年といった長期での社会的課題の解決を視野に入れています。たとえば、カーボンネットゼロへの取り組みにおいてGHG削減のための技術開発や設備投資が必要になります。2030年までに800億円の投資を計画していますが、その前提として、まずは既存事業と新規事業で原資を創出しなければなりません。そのためにも、前中期経営計画「PROUD 2020」および「2021年度経営計画」期間中に実行した投資を着実に成果として刈り取り、加えて、事業ポートフォリオの改革を図ります。全体的な計画の方向性を車でイメージすると、前輪は事業の成長に相当します。まずは、そこでしっかりとキャッシュを創出していき、事業のさらなる成長のためにもキャッシュを再分配していきます。この様に前輪をしっかりと駆動させて事業を拡大しながら、後輪にあたるサステナビリティ、イノベーション、デジタルトランスフォーメーションなどに資源を分配していきます。最終的には、前輪と後輪がバランスよく組み合わさって回るような、四輪駆動になっていくことを想定しています。

事業ポートフォリオについては、メガトレンドに示される社会的課題からターゲット領域を設定した上で、従来の経済的価値に加え、新たに社会・環境価値を加味して評価し、高度化を図っていきます。経済的価値は、年度ごとに各事業・製品の稼ぐ力(OCF)と効率性(ROIC)を、それぞれ対計画比と対前年度比のファクターで定量評価します。社会・環境価値では、化学系企業が持続可能な製品ポートフォリオを目指すために、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)が策定した、一貫性のある評価手法である指針「Chemical Industry Methodology for Portfolio Sustainability Assessments」に準拠したクラレグループのPSAシステムを構築し、客観性と透明性が高い評価を行います。この評価結果から、自然環境・生活環境の向上に寄与するPSA貢献製品を特定し、重点的に資源配分していきます。具体的には、2020年度のPSA貢献製品の売上高比率46%を基準とし、これを2026年度には60%まで高めていくことで、事業ポートフォリオを継続的に変化させていきます。

クラレグループは2000年代以降に海外でビニルアセテート関連事業を複数買収し、米国で〈セプトン〉の生産を開始するなど、重点事業の海外展開を加速してきました。現在、海外売上高比率や、海外の社員数がともに高まり、クラレグループはすでにグローバル企業となっています。しかしその一方で、人事システムがグローバルの体制に追いついていないという課題があります。私自身のこれまでの海外経験や海外メンバーとのプロジェクト経験を通じて、海外拠点にはポテンシャルのある人材がまだまだ埋もれていると強く感じています。かつては「日本から海外を見る」でしたが、「グローバル企業として世界を見る」「世界から日本を見る」という視点に変えなくてはなりません。海外人材は宝の山です。中核人材の多様性を確保しつつ、「One Kuraray」として発揮させるために、海外の人材データベースの構築、国内外の管理職等級の統一、後継者育成や教育プログラムの導入など、人事に関するグローバルな仕組みづくりを積極的に推進していきます。

世界中の生産拠点、研究開発拠点、事業所において「安全はすべての礎」です。2018年の米国エバール工場火災事故の反省も踏まえ、全社員が安全に対する感性を研ぎ澄まし、事故が起こらない会社を目指します。今後の安全対策として、人的リスクが高い危険を伴う作業は極力機械化していくとともに、客観的な目線での安全監査を行っていきます。具体的には、2022年度より新たにグローバルプロセスセーフティマネジメント監査チームを新設し、化学プラントと活性炭プラントを重点対象とした安全監査を強化していきます。そして、「安全第一、生産第二」の意識浸透を徹底的に行います。生産現場では、ともすると計画に即した生産が最優先事項となり、安全が二の次になりがちです。しかし、安全がしっかり確保されてこそ生産が安定し、最終的にはそれが利益にも貢献します。そのうえで、省エネ化やプロセス改良、能力増強などを行うことが重要です。これらの点を踏まえ、「安全はすべての礎」であることを全社員が心に刻んで行動することが、事業継続のための大前提であると確信しています。

私は、「夢、志、執念」という3つの言葉を大切にしています。まず夢を持ち、その実現をこころざし、そして最も重要なのは、執念を持ってやり遂げる、決して諦めないということです。クラレグループは創立100周年を迎える2026年度に、売上高7,500億円、営業利益1,000億円の目標を掲げました。「PASSION2026」の3つの挑戦を強い意志を持って着実にやり遂げることにより、達成します。冒頭で述べた使命に基づき、事業を通じて社会的課題を解決していくことで社会との価値共創を図り、世の中から愛され、必要とされる「かけがえのない企業」であり続けるように、全力で取り組んでいきます。今後とも皆さまの一層のご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。