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株式会社クラレ

「飛行船」イメージ

8月4日未明に茨城県日立市で行われた飛行実験で、今回初めて成層圏に到達した飛行船。この飛行船の船体にクラレのポリアリレート繊維<ベクトラン>が使用されています。<ベクトラン>はスーパー繊維の一種で、鉄と同等の強さを持つ合成繊維です。しかし鉄に比べると1/5~1/6程度と軽く、また低温特性に優れることが評価されこの飛行船に採用されました。

今回の実験は、文部科学省と総務省が進める“成層圏プラットホーム”構想(*)の一環で、全長47メートルの飛行船を成層圏で滞空(高度16,400m)させました。将来は250m級の飛行船を高度20,000mの上空まであげる予定ですが、その大きな1歩を踏み出したといえるでしょう。

<ベクトラン>は1990年にクラレが世界で初めて工業化したポリアリレート系スーパー繊維です。強度は通常の衣料用ポリエステルの約6倍で、スチール繊維と同等の強さを有しています。またポリエステル系の合成繊維であることから水を吸収しないため、水分による影響をほとんど受けません。そのため超低温雰囲気となる成層圏でも、凍りつきにくいというメリットがあります。このような特性が評価され、1997年に行われたNASAの火星探査で精密機器を火星に着陸させる際に、衝撃を和らげるエアバックにも使用されました。

また、この飛行船の船体の外側には、ガスバリアー性に優れたクラレの<エバール>フィルムも使用されています。<エバール>はクラレが世界で初めて開発した樹脂で、ポリエチレンの1万倍という、プラスチックの中ではトップクラスのガスバリアー性があります。世界的に食品包装材料に広く使われるとともに、近年では自動車のプラスチック製ガソリンタンクなどにも使用されています。この飛行船で、地上の1/15~1/20という低い大気密度の中でも、船体に充填したヘリウムガスの透過を防ぐことができる<エバール>のガスバリアー性が評価され使用されました。

次回の飛行試験は、更に飛行船をスケールアップ(全長60m、推進器や通信器材なども搭載)し、来年に予定されていますが、今後も当社は“成層圏プラットホーム”構想の実現に向け、積極的に取り組んでいきたいと考えています。

* “成層圏プラットホーム”構想とは
気象条件が比較的安定している高度20km程度の成層圏に浮かぶ巨大な無人飛行船のネットワーク。通信機材、観測センサーなどを搭載し、新しい通信・放送、地球観測、災害監視等の基地として文部科学省と総務省が共同で研究開発を行っている。