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株式会社クラレ

当社は、繊維補強複合材料であるECC(Engineered Cementitious Composite)向けに、機械的物性や繊維表面特性を改良した新タイプの<クラロンK-Ⅱ>RECを、鹿島建設(株)のプレキャスト合成床版工法用に、同社と共同開発しました。

<クラロンK-Ⅱ>は溶剤湿式冷却ゲル紡糸という当社が初めて開発した製法で、98年より商業生産を行っている新しい合成繊維です。その原料にはポリビニルアルコール(PVA)が使われており、同じPVAを原料としているビニロンに比べ、高品位で高強力という特長を有します。<クラロンK-Ⅱ>は、発がん性から使用規制の広がるアスベスト代替として、セメントの補強などに用いられています。

ECCはミシガン大学リー教授の考案による先端力学に基づいて材料設計された繊維補強セメント複合材料です。モルタル中に<クラロンK-Ⅱ>RECを数%ランダムに分散させ、最適な原材料を組み合わせる事によって、従来のセメント材料の常識を超える高い引っ張り、曲げ変形能力や高いエネルギー吸収力を発揮します。また、大変形時にひび割れ幅を微小なレベル(0.1mm以下)に抑制できるため、コンクリート構造物の耐久性向上が期待できます。

同工法は、ECCからなるプレキャストパネルを道路橋の鉄筋コンクリート床版に適用したもので、工場製作されたパネルを埋設型枠として桁上に敷施した後、所定の床版厚さとなるように鉄筋を組み立て、コンクリートの打設を行います。パネルにはトラス鉄筋が設置されており、トラス鉄筋によって場所打ちコンクリートとの一体性を確保します。ECCが疲労劣化の原因となるひび割れの進展を抑制することにより、疲労劣化に対する抵抗性を向上させています。

プレキャスト合成床版工法に用いられる製品は、新たに設計された<クラロンK-Ⅱ>REC 15x12mmです。約3年間に亘る鹿島建設(株)との共同研究の末、セメントとの最適な接着力とモルタル中での優れた分散性を有し、かつ製品の疲労耐久性を飛躍的に高めるために、繊維表面の改質に成功。この度正式に採用されました。

ECCは<クラロンK-Ⅱ>の特長を最大に生かせる分野であることから、当社は今後も積極的に開発を進め、事業の拡大を図っていきます。

1. <クラロンK-Ⅱ>RECの特長

  • ミシガン大学リー教授が、コンピューターシュミレーションによって、ECCとして最適な素材を設計。(株)クラレが下記の特長を持つ繊維製造技術を確立しました。
  • (1) 高強度、高伸度、高引張弾性率
  • (2) 繊維径を太くし、かつ収束することによってマトリックス中での分散性を向上
  • (3) 優れた繊維界面特長(最適なセメントとの接着性)
  • (4) 優れた長期耐久性(特に、耐アルカリ性)

2. 今回採用された<クラロンK-Ⅱ>RECについて

(1) 製品規格 繊維径40ミクロン(15dtex)繊維長12mm
(2)強度 1,700MPa
(3)伸度 6%
(4) 引張弾性率 45GPa

3. <クラロンK-Ⅱ>RECで補強されたECCの特長

(1) 高靭性(高エネルギー吸収性)
鋼材降伏の20倍の引張ひずみ能力を実現。アルミ並みの破壊靱性を示す。
高いエネルギー吸収性を生かし、耐震安全性に優れる高性能耐震部材に適用できる。
(2) 多くの微細なクラックを発生
水などの浸入または漏洩を防止し、防錆・耐凍害などの効果が期待できる。ひび割れ幅の抑制による高耐久性構造物が可能。

4. 高靭性モルタル・コンクリートヘの展開

ECC技術を基に、高靭性モルタル・コンクリート用<クラロンK-Ⅱ>の最近の応用例を紹介します。

1. REDEEM工法(鉄建建設との共同研究)
REDEEMボード(薄型抄造法高靭性ボード)を永久型枠とし、古くなったコンクリートとの中間部にREDEEMマット(<クラロンK-Ⅱ>不織布)を配して、セメントミルクを注入。トンネル・橋梁などの高靭性化及び耐久性向上を目的とした補修及び補強工法です。
2. 永久型枠
厚10mm以下の抄造法高靭性ボードを永久型枠として使用。変形性能および耐衝撃性能に優れる上、緻密な構造のため、塩分浸透及び中性化が抑制でき、コンクリート構造物の耐久性向上が期待できます。
3. 高靭性パイプ類
デンマーク工科大学で考案された押出し高靭性パイプで、鉄筋コンクリートパイプの大幅軽量化並びに靭性・変形性能の向上を図る。海外大手メーカーにて実用化に向けた研究が進んでいます。
4. 高架橋現場打設補修
高架橋・トンネルの補修及び高靭化を目的としたポリマーコンクリート代替素材。自己充填性を持ち、施工が良いために、北米ミシガン州土木交通局にて研究中。プレミックス化の検討も進んでいます。

5. ECCの今後の展開

2年前に国土交通省建築研究所主導の国際プロジェクト:日米スマートの“高知能建築構造システム”が始まり、昨年6月には日本コンクリート工学会(JCI)に、高靭性型セメント系複合材料研究会が発足されました。鹿島建設(株)を始め、大手ゼネコンによって実用化に向けた研究が急ピッチで進んでおり、今や、産学官(海外を含む)でECCの研究が精力的に進んでいます。